大学物理の独言

物理学に関連して自分が学んだことを不定期で書いていきます。依頼や要望、ご指摘等はコメントまで

アンペールの法則②

アンペールの法則の記事で紹介したように、磁束密度 {\overrightarrow{B}} は任意の閉曲線 {C}

{\displaystyle \oint_C \overrightarrow{B} \cdot d \overrightarrow{r} = \mu I}

を満たすことが知られているのだが、今回はもう少し正確に書き直しておこう。

磁束密度を計算する上ではあまり意識せずともよいのだが、この法則の右辺は、大きさ {I} 、向きが電流が流れる方向のベクトル {\overrightarrow{I}} と閉曲線に囲まれた面に垂直な単位ベクトル(向きは {C} が反時計回りに見える方向に向かう)を用いると

{\displaystyle \oint_C \overrightarrow{B} \cdot d \overrightarrow{r} = \mu \overrightarrow{I} \cdot \overrightarrow{n}}

と書かれるべきである。

こう書き表せば電流が流れる向きによって {I} の符号に気をつけねばならないことにも納得がいくだろう。

また、電流が閉曲線に囲まれた面を斜めに貫く場合には電流の値をそのまま使うのではなくて、面に垂直な成分のみを取らなければならないことにもなり、感覚的にも理解できるはずである。

今回はアンペールの法則の話の続きで、この法則の変形を試みる。



ガウスの定理とストークスの定理を思い出してほしい。

任意のベクトル {\overrightarrow{A}} について、ガウスの定理によると

{\displaystyle \int_S \overrightarrow{A} \cdot \overrightarrow{n} dS = \int_V \nabla \cdot \overrightarrow{A} dV}

ストークスの定理によると

{\displaystyle \oint_C \overrightarrow{A} \cdot d\overrightarrow{r} = \int_S \left( \nabla \times \overrightarrow{A} \right) \cdot \overrightarrow{n} dS}

が成立する。

使用している文字の意味がわからない場合には、ポアソンの方程式について書いた記事と同じであるからそちらを確認してほしい。

今回使用するのは、ストークスの定理である。

見ての通り、ストークスの定理の左辺はアンペールの法則の左辺と同じ形をしており、この定理が適用できるのである。

早速やってみると

{\displaystyle \int_S \left( \nabla \times \overrightarrow{B} \right) \cdot \overrightarrow{n} dS = \mu \overrightarrow{I} \cdot \overrightarrow{n}}

となる。

これだけではわかりづらさが増しただけのように感じるし、右辺もなんとかして変形したい。

そこで、電流密度 {\overrightarrow{i}} なるものを導入してみる。

これは各位置での単位面積あたりの電流ベクトルで、電流が流れていない場所では当然 {\overrightarrow{0}} となる。

さて、電流密度ベクトルを使用した場合、アンペールの法則の左辺は

{\displaystyle \mu \overrightarrow{I} \cdot \overrightarrow{n} = \int_S \mu \overrightarrow{i} \cdot \overrightarrow{n} dS}

となる。

これを用いてアンペールの法則を書き直せば

{\displaystyle \int_S \left( \nabla \times \overrightarrow{B} \right) \cdot \overrightarrow{n} dS = \int_S \mu \overrightarrow{i} \cdot \overrightarrow{n} dS}

となり、積分の中身のみを比べれば

{\displaystyle \begin{split} \left( \nabla \times \overrightarrow{B} \right) \cdot \overrightarrow{n} &= \mu \overrightarrow{i} \cdot \overrightarrow{n} \\ \\ \nabla \times \overrightarrow{B} &= \mu \overrightarrow{i} \end{split}}

として表せてしまうのである。

これが空間上の各位置でのアンペールの法則である。

意味は積分を用いていたときとそう変わらず、各地点の磁束密度は透磁率とそこを貫く電流の積に等しい、というものである。

ちなみに、閉曲線 {C} に囲まれた面 {S} というのは、かなり自由に決めることができてしまう。

多くの読者が {S} として {C} をふちとする円だとか多角形のようなものを思い浮かべているだろうが、もっと三次元的に広がった面を考えてもよいのである。

例えば、虫取り網のフレームを閉曲線に見立てた場合、それに囲まれた円が {S} になることはできるのはもちろん、その後ろに広がった網の部分を {S} としてしまっても一向に問題はない。

ここからは説明がしづらいから余裕のある読者だけが読んでくれればよいのだが、これはガウスの法則で「閉曲面を外側にむけて垂直に貫く電気力線の本数は、立体内部で生まれた電気力線の本数に等しい」と考えることができたのと同じ理屈である。

ガウスの法則の時には立体外部から入ってきた電気力線は別の場所で外に抜けていくため {\pm0} である、と説明した。

今回についても、{C} をふちとするふたつの面(面1、面2とする)を考えた時、面1と面2を組み合わせれば閉じた立体が生まれるが、面1から入った電流は必ず面1か面2で抜けていくから、{C} がふちであるという条件のもとで作られた面は、どのようなものであってもそれを貫く電流の本数は同じになるのである。

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このような考え方に基けば、曲面は都合の良いように自由に決めることができ、どのような面を用いて計算しても同じ結果が得られる。

この事実がちょっとした問題を引き起こしてアンペールの法則を少し修正する必要が生じるのだが、それはまた後の話である。