マクスウェル方程式と電磁波
単磁荷と呼ばれるようなN極だけ、またはS極だけしか持たないものは見つかっていない。
磁石というのはN極の逆側には必ずS極があるし、円形の電流が作り出すような磁場に関しても、そのつくりだすベクトルを調べると電気双極子によるベクトルとよく似た形になるのだから、それもN極とS極が電流によって生じたという見方ができるだろう。
そもそも、磁石というものも物質中の電子の運動によって円形導線が作り出す磁場と同じような仕組みで生じているものである。
我々の知る限りでは、N極が存在すれば必ずS極も対になって存在するし、S極が存在すればN極もある。
我々が知らないというだけで単磁荷を否定することはもちろんできないが、とにかく我々の周りにはどうやらなさそうだ。
こうして単磁荷が存在しないとしてしまうと、新しくひとつの法則が成り立つ。
電場の場合を思い出してほしいのだが、電場 は
という式が成り立つ。
もし のすぐ近く、それも同じ場所と近似できてしまうくらい近くに の電荷が存在していたとしたら、このガウスの法則の右辺は0となるのだから、
となる。
磁束密度 についても、電場と同じように考えることができるのではないだろうか。
つまり、円形電流が作り出す磁場はその円形内部にごく短い磁石、それこそN極とS極が同じ場所にあると見てよいほど近くにある磁石が発生しているとみることができるわけだし、生活で活用されているような一般的な磁石だってそのごく短い磁石が積み重なってできたものなわけだから、何もない場所ならもちろん、磁場が発生している場所でも
となるのである。
は発散を意味するのだから、N極からでてもS極に入っていくような磁力線の様子を考えれば当然の結果である。
電磁気学に関して、
となることを、ガウスの法則、上の議論、ファラデーの電磁誘導の法則、アンペール・マクスウェルの法則から学んだ。
この4個の式を、合わせてマクスウェル方程式とよぶ。
電磁気学において非常に重要な4式が出揃ったわけである。
紹介だけで終わるのもなんだし、今回はこれを使って電磁波について考えてみよう。
シンプルにするため、電流も電荷も存在しない場所について考えてみよう。
つまり、 と が成り立つとする。
まず、(3)式の両辺の回転を考えてみる。
つまり
の計算をする。
時間微分と を途中入れ替えたが、それぞれの計算の意味を考えればこれが成り立つことは理解できるだろう。
一般のベクトル について
が成り立つことと(4)式を利用すると
と変形できる。
電荷がない場合の(1)式を使用すれば左辺第一項は消えるのだから
となる。
次に、同様に(4)式の回転を考えてみる。
このように、電場にも磁束密度にも似たような方程式を作ることができるのである。
実は、これらはどちらも波動方程式と呼ばれる形になっており、このような関係が成り立つことから、電場と磁場は波動のような振る舞いをすることができることを示している。
実際、空間中に電場が発生すればアンペール・マクスウェルの法則によって磁場が発生し、その磁場がファラデーの電磁誘導の法則によって電場を打ち消す方向に発生するというようにして、まるで波打つように電場と磁場が相互に作用し合う現象が起こる。
これこそが電磁波と呼ばれるものの正体なのである。
ちなみに、波動方程式というのは一般に
というかたちで表され、 は進行する速さを表す。
つまり、今回の電磁波の波動方程式では が電磁波の速さに相当することになり、真空中でこれの値を計算すると になる。
は光速を表すのである。
ここからは、わかりやすくするため電磁波が 方向に進むとして考える。
つまり波動方程式は
と表されるとする。
すると、波動方程式から
が解であることがわかる。
これを、ファラデーの電磁誘導の法則の式に入れて考えてみよう。
となることから
と求まる。
この結果からわかるように、電場と磁束密度は向きが垂直方向になっているが、大きさに関しては
という関係にあることがわかるのである。