オイラー・ラグランジュ方程式
運動方程式は物理学でも特に重要だが、色々な座標系で使うには少々面倒なのである。
デカルト座標で考えるにはシンプルだが、極座標に変換すると遠心力だとかの項が出てくるから覚えるのが大変だし、それ以前に新しい座標での運動方程式の導出が手間である。
なにかどのような座標でも同じ形で運動方程式を組み立てることができるような、魔法のような公式はないものだろうか。
デカルト座標で、運動エネルギー は
と書ける。
文字の上に・を書くのは、その文字の時間微分を表している。
この運動エネルギーを で微分して、それをさらに時間微分してみる。
わけがわからない操作に思えるだろうが、この操作の結果、 軸方向の運動方程式の左辺が出てきた。
右辺はどうだろうか。
物体に働く保存力 というのは、ポテンシャルを とおけば
と表されるが、成分ごとに表せば
であるから、 軸方向に働く保存力は
となる。
つまり、保存力しか働かないという条件では、デカルト座標で 方向の運動方程式は
となるわけである。
もっとシンプルに書き換えてしまおう。
というものを用意する。
先に書いたようにデカルト座標の運動エネルギーでの変数は だけで は含んでいなかったわけだし、ポテンシャルは座標のみの関数でそれらの一階微分など含まないのだから、
としてしまっても同じように 軸方向の運動方程式になり、 を とか に書き換えればそれぞれの方向の運動方程式になるのである。
ただし、 と は独立としている。
半ば強引な導出方法にも見えるが、 をラグランジアンと言い、これによる運動方程式を「オイラー・ラグランジュ方程式」という。
少なくともデカルト座標でこの方程式は成り立ちそうだし、実際成り立つのだが、だからと言って冒頭に言ったような「魔法のような公式」であるとはまだまだ言えない。
たとえば二次元極座標の運動エネルギーは
となり、見ての通り微分されていない座標変数 があるのだから、もっと複雑な座標ではどうなるかわからなくなってくる。
しかし、驚くべきことに、実はどのような座標でもオイラー・ラグランジュ方程式が使えてしまうのである。
ここからそれを証明していく。
質点がひとつであれば の3変数で済むが、質点がもっとたくさんあれば と文字の扱いが大変なので、ここからは という 個の座標で考える。
この座標系を別の座標系に変換していくが、座標変換後の変数を としよう。
すると、座標変数が時間を直接含まないことにすればすべての は 〜 によって表すことができ、それによって は 〜 と 〜 で表されることになる。
下準備はここまでにして、オイラー・ラグランジュ方程式の座標変換をしてみよう。
となる。
の両辺を で微分すると
という関係が求められるから、これを使うと先ほどの式は
と書き換えられるのである。
となる。
これらの結果から
というふうに変形できるのである。
よって、大文字の を座標変数とする新しい座標系でオイラー・ラグランジュ方程式が成り立つためには、右辺が0となってしまえばよい。
から
となる。
また、
となるのだから、右辺の()の中は0になるのである。
よって
となるが、これを満たすのは、全ての について
となる場合のみである。
このことから、あるひとつの座標系でオイラー・ラグランジュ方程式が成り立てば、どのような座標変換を行なっても変換先の座標変数でもオイラー・ラグランジュ方程式は成立するのである。
デカルト座標で成り立つのだから、三次元極座標でも円筒座標でも、その他の複雑な座標系でもこの方程式で運動方程式が立てられることになる。
実際、三次元極座標について考えると、この座標系で
となるから、 方向の運動方程式は
として容易に求められてしまう。
同じように 方向の運動方程式は じゃなくて を入れれば求まるし、 方向についても同様である。