大学物理の独言

物理学に関連して自分が学んだことを不定期で書いていきます。依頼や要望、ご指摘等はコメントまで

変分法・最速降下線

これまでの力学は、運動の変化のしかたを表す式に初期条件や境界条件を代入することによって、細かく区切った時間ごとの様子を調べていくものだった。

しかし、変分法を使えば、初めと終わりの条件を設定することによって様子を追うことができてしまうのである。

変分法が扱うのは、

{\displaystyle S = \int_b^a L(q, \dot{q}) \: dt}

というような積分である。

この積分について、「{S}極値をとる方法で {L} が変化する」というのが変分法の主張となる。

思わせぶりに積分の中身を {L} で書いてしまったが、この {L}ラグランジアンと考えれば、{S}極値をとるような {L} を考えると、オイラーラグランジュ方程式が導出できてしまう。

{L}ラグランジアンの場合の {S} を作用と呼び、作用についての変分法を特に変分原理と呼ぶ。



早速式を変形していくのだが、その際に {q}{\dot{q}} は独立として考えなければならない。

変分法では、一旦これらを独立として考えて、独立なそれらによって生成されるすべての運動軌道の中からただ一つの最適なものを探し出す。

{S}極値をとるとき

{\displaystyle \delta S = \int_b^a \delta L \: dt = 0}

となることは、そもそも極値をとる場所というのはそういうところのことを言うのだから、グラフを考えれば理解できるだろう。

{\displaystyle \delta L = \sum_{i}^{n} \left( \dfrac{\partial L}{\partial q_i}\delta q_i + \dfrac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\delta \dot{q_i} \right) }

だから、これを部分積分などを駆使して式変形していけばよいのである。

先ほど {q}{\dot{q}} は独立と書いたが、部分積分の過程では {q} の時間微分{\dot{q}} として書き換えてしまう。

独立であれば本来許されない操作だが、実現しうる運動であればこのような関係が成り立つのだから、考えている無数の軌道のうちで {q}{\dot{q}} の関係から少々絞り込みを行なったという意味になる。

{\displaystyle \int_b^a \sum_{i}^{n} \left( \dfrac{\partial L}{\partial q_i}\delta q_i + \dfrac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\delta \dot{q_i} \right) dt \\ \\ \displaystyle
= \left[ \sum_{i}^{n} \dfrac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\delta q_i \right]_b^a + \int_b^a \sum_{i}^{n} \left\{ \dfrac{\partial L}{\partial q_i}\delta q_i - \left( \dfrac{d}{dt} \dfrac{\partial L}{\partial \dot{q_i}} \right) \delta q_i \right\}dt \\ \\ \displaystyle 
= \left[ \sum_{i}^{n} \dfrac{\partial L}{\partial \dot{q_i}}\delta q_i \right]_b^a + \int_b^a \sum_{i}^{n} \left( \dfrac{\partial L}{\partial q_i} - \dfrac{d}{dt} \dfrac{\partial L}{\partial \dot{q_i}} \right) \delta q_i \: dt 
}

1行目から2行目への部分積分{\int dt} の外に項が現れたが、実はこの項は0になって消滅する。

変分法で考えているのは、初めと終わりの条件を設定した場合に途中の経路がどうなるかというもので、初めと終わりの条件を満たすあらゆる軌道の中から {S}極値をとるものを探しているのである。

座標の一階微分は組み込む条件ではないからどうなるかわからないのだが、考えている初めと終わりの座標にずれがあっては、出てくる運動が考えたいものと別のものになってしまう。

f:id:monologue_physics:20210916121744p:plain
実現する軌道とずれた軌道とで、t=a と t=b では q が同じにならなければならない

このような理由から、

{\displaystyle \delta q(a) = \delta q(b) = 0}

となり、結局

{\displaystyle \delta S = \int_b^a \sum_{i}^{n} \left( \dfrac{\partial L}{\partial q_i} - \dfrac{d}{dt} \dfrac{\partial L}{\partial \dot{q_i}} \right) \delta q_i \: dt = 0}

だけが残るのである。

{\delta q_i} がどのようであってもこれが成立するためには、すべての {i}

{\displaystyle \dfrac{\partial L}{\partial q_i} - \dfrac{d}{dt} \dfrac{\partial L}{\partial \dot{q_i}} = 0}

とならなければならないのだから、オイラーラグランジュ方程式が導出される。



上では変分法オイラーラグランジュ方程式の導出に使用したが、もともと「{S}極値をとるものを探す」というものなのだから、もっと別の活用法がある。

たとえば、下の図のように {A}(原点)から {B} まで質点が最短時間で転がり降りるためにはどのような斜面であればよいかということも、変分法によって求めることができる。

f:id:monologue_physics:20210916141355p:plain

どのような条件を考えれば {S} が最小になるかという話になるのだが、縦軸に {S} 、横軸に {q, \dot{q}} が設定された適当なグラフを考えてみてほしい。

{L} の意味を考えればある座標で突然 {S} が不連続に変化するはずはないので、グラフは連続となるべきである。

そのように考えると、 {S} が最小になるとき、グラフは極小とならなければならない。

また、{S} は経路をいくらでも長くできるため極大値などというのは存在しないから、グラフが極値をとる場所で {S} が最小となると言えるのである。

最短時間で転がり降りることができる斜面は最速降下線と呼ばれるのだが、転がり落ちるのにかかる時間を {T} とおき、斜面の軌道 {y}{x} で表せば、転がる速さを {v} として

{\displaystyle T = \int_A^B \dfrac{1}{v} \sqrt{1 + \left( \dfrac{dy}{dx} \right)^2} dx}

となることがわかるだろう。

原点で質点の初速度が0とすれば、エネルギー保存則より

{\displaystyle v = \sqrt{2gy}}

だから、以降では {\dfrac{dy}{dx} = y'} と表すことにするが

{\displaystyle T = \int_A^B \sqrt{\frac{1 + y'^2}{2gy}} dx}

となるのである。

変分法について最初に書いた式と比べると文字の対応関係は

{\displaystyle T \sim S}

{\displaystyle x \sim t}

{\displaystyle y \sim q}

{\displaystyle y' \sim \dot{q}}

{\displaystyle L \sim \sqrt{\frac{1 + y'^2}{2gy}}}

となっているのだから、

{\displaystyle \dfrac{d}{dx} \dfrac{\partial}{\partial y'}\sqrt{\frac{1 + y'^2}{2gy}} = \dfrac{\partial}{\partial y}\sqrt{\frac{1 + y'^2}{2gy}}}

を満たす軌道が、転がった時に最も短い時間で {A} から {B} に到達するものとなるわけである。

計算してみればわかるが、これによってサイクロイドのグラフが求めたい答えとなる。

その他の例題としては、上の図で {A} から {B} への最短距離を示すグラフはどのようになるかを計算してみれば、自明な解が得られるはずである。