エネルギーとはなんなのか
エネルギーとは、ある物体が内包している、別の物体に対してすることのできる仕事の総量のことを言う。
エネルギーの形態には運動エネルギーやポテンシャルエネルギー(位置エネルギー)、熱エネルギーなどと様々なものがあり、物体の様子が変化する時にはエネルギーが別のエネルギーに変換される。
さて、エネルギーを考えるに当たって、当然数式での定義を知りたくなるだろう。
しかし、残念ながら、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの定義を同じ数式で表すことはできず、他のものについても同様である。
エネルギーの総量に関してはNoetherの定理によって理解することができるが、この定理は複雑極まりなく、抽象的な上に前提として様々な概念を導入しなければならないので、ここで扱うのは断念せざるを得ない。
とにかく、それぞれの形態におけるエネルギーの大きさは、個別に表現を考えていくしかないのである。
この記事では、代表してポテンシャルエネルギーについて考える。
位置 におけるポテンシャルエネルギー は、基準点を とすれば
として、線積分によって表される。
この式が表しているのは、どのような経路を通って位置 に持ってきてもポテンシャルは変わらないということである。
基準点から直線的に に持ってくれば、経路と が常に平行となるから、短い距離で大きな力に逆らいながら移動させる経路となる。
一方で、蛇行した経路を辿ると、経路と平行な の成分が小さくなる代わりに、経路が長くなるため、内積の値の積分はうまくバランスされて直線経路と等しくなるわけである。
すなわち、ある位置から物体が移動したとしても、同じ位置に戻ってきさえすればポテンシャルの値は同じ値に戻るのである。
ポテンシャルエネルギー以外にもその他がどのようにして表されるのかをあげていたらキリがないし、少し調べれば簡単にわかることなので、ここではよくある誤解を解いていくことにしよう。
先日、万有引力によるポテンシャルエネルギーに関して、「宇宙空間へ行けば無重力になって物体が落ちて来なくなるから、位置エネルギーは本当は存在しない」という意見を見かけた。
この主張は、大きく2つの点で誤っている。
まず、宇宙空間では無重力になるというのが誤りである。
物体Aと物体Bの間に働く万有引力の大きさFは、をそれぞれ万有引力定数、物体Aの質量、物体Bの質量、AとBの距離として
と表される。 を大きくしていくと は限りなく0に近くなるから、ほとんど無視できるようになる。
しかし、ほとんど無視できるというだけで、本当の意味での0にはなり得ない。
つまり、無重力のように感じられても、本当の意味で力が働いていないということではなく、ごく小さな万有引力が働いているのである。
宇宙空間では無数の天体による力があらゆる方向に働くから、思っていた方向へ落ちていくということは難しい。
しかし、「無重力になって落ちて来なくなる」というのは誤っている。
2つ目の誤りは、エネルギーに対する解釈にある。
エネルギー保存則というのは、「エネルギーの総量が一定に保たれる」という主張である。
ここにはエネルギーがどのような方向へ変化するかということや、何に置き換えられるかという情報は全く含まれない。
つまり、物体が落ちて来なかったとしても、エネルギーが一定であれば、少なくともエネルギーの視点からは全く問題がないのである。
エネルギーの総量が保たれれば、落ちなくとも位置エネルギーを否定する根拠にはなり得ない。
逆に、位置エネルギーが存在しないと考えると、落ちてきたときに運動エネルギーが何もないところから発生したことになり、法則に矛盾する。
この2つ目と同じ誤解によって生じる発想には、「強火で短時間加熱すれば、弱火で長時間加熱するのと同じ料理が作れる」というものもある。
これは料理初心者がよくしてしまう勘違いだが、食材に対して与えるエネルギーの総量が同じであっても、それがどのように食材へ伝わるのかはエネルギー保存則によっては決定されないのであるから、当然料理はうまくいかない。
食材の表面ばかりにエネルギーが伝わって、内側が生のまま外側が焦げるのがオチである。