大学物理の独言

物理学に関連して自分が学んだことを不定期で書いていきます。依頼や要望、ご指摘等はコメントまで

静電ポテンシャル

重力のポテンシャルを考えることができるのと同じように、当然静電気力にもポテンシャルを考えることができる。

これは電位といった方が馴染みがあるだろうが、ようは力学で考えていたのと同じようにどれだけの仕事をする能力があるかを表すものである。

静電ポテンシャルの性質は主には次の3つがある

1. 電荷が存在しない場所ではポテンシャルが極値を取らない
2. ある領域の内部に電荷が存在せず、領域のふち全周のポテンシャルがどこも {\phi_0} になるとき、その領域はどこもポテンシャルが {\phi_0} になる
3. 電荷分布と境界条件が与えられたとき、全領域のポテンシャルは一意に定まる

ポテンシャルの計算方法は、これも力学と変わらないからそう難しいものではない。

静電ポテンシャルを {\phi} とおけば

{\displaystyle \phi = - \int_{r_0}^{r} \overrightarrow{E}(r') \cdot d \overrightarrow{r'} }

となる。

つまり、電場を {r_0} から {r} までで線積分すればいいわけである。

{r} というのは自分が知りたい位置の座標中心からの距離だが、{r_0} は大抵の場合自由に決めてよく、無限遠として {r_0 = \infty} とすることが多い。

ポテンシャルというのは「基準となる位置を決めてそこをポテンシャル0の面と決めた場合に他の場所のポテンシャルはどうなるか」というものだから、基本的には基準は自由に決定していいのである。

基本的には、というのは、下でする計算の結果を見ればわかるように、たとえば点電荷の場合だと {r_0 = 0} を基準面と考えてしまった場合、数学的にポテンシャルを定義できなくなってしまうから、そのような基準の取り方は避けなばならないということである。

具体的に、点電荷の場合について考えてみよう。

電荷が距離 {r} の位置に作る電場 {\overrightarrow{E}}

{\displaystyle \overrightarrow{E} = \dfrac{q}{4 \pi \epsilon r^2} \overrightarrow{e_r}}

であるから、これをさきほどの式に代入すれば

{\displaystyle \begin{split}\phi &= - \int_{r_0}^{r} \overrightarrow{E} \cdot d\overrightarrow{r} \\ \\ &= - \int_{r_0}^{r} \dfrac{q}{4 \pi \epsilon r^2} \overrightarrow{e_r} \cdot dr\overrightarrow{e_r} \\ \\ &= \dfrac{q}{4 \pi \epsilon r} - \dfrac{q}{4 \pi \epsilon r_0} \end{split}}

となる。

{r_0 = \infty} としてしまえば最後の式の第二項が0になるから、第一項だけ残ってわかりやすくなるわけである。



逆に静電ポテンシャルから電場を求める場合には、この操作の逆を辿ればいいわけだから

{\displaystyle |\overrightarrow{E}| = - \dfrac{d\phi}{dr} }

を計算した後に電場の向きを考えればいいのだが、向きも大きさも機械的に決定してしまえるいい方法が存在する。

そのために導入するのが、{\nabla}という演算記号である。

この記号は「ナブラ」と読むが、これは記号が「ナブラ」という名前の楽器によく似ていることからこのような呼称がつけられたらしい。

名前の由来はさておき、この記号はどのようなものかというと

{\displaystyle \nabla = \left( \dfrac{\partial}{\partial x}, \dfrac{\partial}{\partial y}, \dfrac{\partial}{\partial z} \right)}

というベクトルで、具体的な運用の仕方は、{\overrightarrow{B} = \left( B_x, B_y, B_z \right)} とおけば

{\displaystyle \nabla A = \left( \dfrac{\partial A}{\partial x}, \dfrac{\partial A}{\partial y}, \dfrac{\partial A}{\partial z} \right)}

{\displaystyle \nabla \cdot \overrightarrow{B} = \dfrac{\partial B_x}{\partial x} + \dfrac{\partial B_y}{\partial y} + \dfrac{\partial B_z}{\partial z}}

{\displaystyle \nabla \times \overrightarrow{B} = \left( \dfrac{\partial B_z}{\partial y} - \dfrac{\partial B_y}{\partial z}, \dfrac{\partial B_x}{\partial z} - \dfrac{\partial B_z}{\partial x}, \dfrac{\partial B_y}{\partial x} - \dfrac{\partial B_x}{\partial y} \right)}

である。

一見複雑な計算のようにも見えるが、ひとつ目はベクトルとスカラーの積のような計算法になっているのがこれをみればわかるし、同じようにふたつ目はベクトル同士の内積、みっつ目はベクトル同士の外積と同じような計算である。

ちなみに、これらはその計算結果の意味から、ひとつ目は「勾配」、ふたつ目は「発散(または「湧き出し」)」、みっつ目は「回転」などと言い表されることが多く、表記する際にもそれぞれ {grad \,A}(gradient から)、{div \, \overrightarrow{B}}(divergence から)、{rot \, \overrightarrow{B}}(rotation から)と書かれることがある。

{\nabla} の導入にあたって今回は使用しない部分まで説明してしまったが、電場を求めるにあたって利用するのはこのうちの勾配である。

実は、静電ポテンシャルと電場の間には

{\displaystyle \overrightarrow{E} = - \nabla \phi}

という関係が成り立っている。

ちなみに、より一般に、力 {\overrightarrow{F}} とそれによるポテンシャル {U} の間には、静電気力の場合と同様に

{\displaystyle \overrightarrow{F} = - \nabla U}

という関係がある。

このようにして、{\nabla} を使えば大きさと向きとを別々に考えなくても簡単に電場を導出できてしまうのである。

先ほどの点電荷が作る電場を、ポテンシャルから導出してみよう。

{\displaystyle \overrightarrow{E} = - \nabla \phi = - \left( \dfrac{\partial}{\partial x}, \dfrac{\partial}{\partial y}, \dfrac{\partial}{\partial z} \right) \dfrac{q}{4 \pi \epsilon r} }

ここで

{\displaystyle \dfrac{\partial}{\partial x} \dfrac{1}{r} = \dfrac{\partial}{\partial x} \left( x^2 + y^2 + z^2 \right)^{- \frac{1}{2}} = - \dfrac{x}{r^3}}

で、{y, z} についても同じような計算ができるから、

{\displaystyle \overrightarrow{E} = \dfrac{q}{4 \pi \epsilon r^3} \left( x, y, z \right)}

となって、もとの電場にしっかりと戻っていることが確認できる。