大学物理の独言

物理学に関連して自分が学んだことを不定期で書いていきます。依頼や要望、ご指摘等はコメントまで

アンペール・マクスウェルの法則

アンペールの法則の微分形について書いたときに、閉曲線 {C} をふちとする曲面であれば、ストークスの定理で考える面 {S} は綺麗な円や多角形であっても立体的に歪んだ面であっても問題ないということを書いた。

しかし、普通はそれで問題なく計算できるのだが、少し無理矢理におかしな状況を作ってやることもできてしまう。

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上の図を見てほしい。

これはコンデンサーと抵抗を持ったごく一般的な回路で、導線の一部を囲むような経路 {C} を考えて面 {S}{C} をふちとする円としている。

このような場合であれば {S} を貫く電流は明らかに導線に流れているものだけだから、公式に従って計算すれば {C} 上の磁束密度を容易に計算できる。

しかし、同じ経路 {C} で、面 {S} を次の図のように考えたらどうだろうか。

{S}コンデンサーの方向へ円柱状に伸びてコンデンサーの隙間を通過するのである。

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このような面を考えてしまうと、{S}コンデンサーの隙間で回路を横切っているのだから、この面上を導線が貫いていないことになる。

{C} が同じであれば {S} のとり方は任意のはずなのに、これではアンペールの法則を計算するときの電流 {I} が0になってしまい、{C} の磁束密度が0ということになってしまう。

アンペールの法則の修正が必要なのである。



ここから修正方法を考えていくわけだが、ようはコンデンサーの間に電流に代替できるものがあると考えてしまえばいいわけである。

コンデンサーの隙間の様子を考えてみよう。

コンデンサーのふたつの極板には、上の図で右の極板には大きさ {Q}、左の極板には {-Q}電荷がある。

これらによって、極板の面積 {A} が充分に大きいと考えればコンデンサーの間には

{\displaystyle \overrightarrow{E} = \dfrac{Q}{\epsilon A} \overrightarrow{e_x}}

の電場が存在することになる。

ただし、図の左方向に {x} 軸を考えている。

ここで、電流とはなんだったかということを考えてみる。

電流というのは、単位時間当たりに何クーロンの電荷が流れたかということを表すのだから、電流 {I}電荷 {q} で表せば

{\displaystyle I = \dfrac{dq}{dt}}

である。

コンデンサーに話を戻す。

コンデンサーの間には電流が流れていないものの、回路に電流が存在する間は両極板の電荷 {\pm Q} は変化を続けており、それに伴って極板間の電場の大きさも時間変化する。

コンデンサーのところにあるのが導線であったならば {\dfrac{dQ}{dt}} の電流が流れていたのだから、コンデンサーがある場合にも同じだけの仮想的な電流を考えてよいのではないだろうか。

そのような発想のもと、コンデンサー間の仮想的な電流 {I'} を考えてみると

{\displaystyle I' = \dfrac{dQ}{dt} = \dfrac{\partial}{\partial t} \left( \epsilon A |\overrightarrow{E}| \right)}

となる。

実は、ここまでの思考は正しく、これこそがアンペールの法則に考慮すべき要素なのである。

より正確には、閉曲線 {C} をふちとする面 {S} を用いて

{\displaystyle \overrightarrow{I'} = \int_S \epsilon \dfrac{\partial \overrightarrow{E}}{\partial t} dS}

と表される。

先ほどはスカラーで表していたのに対して今回はベクトルで書いているが、これが許されるのは向きを考えれば自明だろう。

右辺の積分の中身として書いた {\epsilon \dfrac{\partial \overrightarrow{E}}{\partial t}} は、変位電流と呼ばれている。



ここまでで新しく取り入れた要素をもとに、アンペールの法則を書き直してみよう。

これまで電流と呼んできた部分に今回の新要素を加えればいいわけだから、より正確なアンペールの法則は

{\displaystyle \begin{split} \oint_C \overrightarrow{B} \cdot d\overrightarrow{r} &= \mu \left( \overrightarrow{I} \cdot \overrightarrow{n} + \int_S \epsilon \dfrac{\partial \overrightarrow{E}}{\partial t} \cdot \overrightarrow{n} dS \right) \\ \\ &= \mu \overrightarrow{I} \cdot \overrightarrow{n} + \int_S \epsilon \mu \dfrac{\partial \overrightarrow{E}}{\partial t} \cdot \overrightarrow{n} dS \end{split}}

あるいは

{\displaystyle \begin{split} \int_S \left( \nabla \times \overrightarrow{B} \right) \cdot \overrightarrow{n} dS &= \mu \left( \overrightarrow{I} \cdot \overrightarrow{n} + \int_S \epsilon \dfrac{\partial \overrightarrow{E}}{\partial t} \cdot \overrightarrow{n} dS \right) \\ \\ &= \mu \overrightarrow{I} \cdot \overrightarrow{n} + \int_S \epsilon \mu \dfrac{\partial \overrightarrow{E}}{\partial t} \cdot \overrightarrow{n} dS \end{split}}

と表されるわけである。

これは、アンペール・マクスウェルの法則と呼ばれる。

ただし、ここで書いた {\overrightarrow{I}} というのは導線などを流れている真の電流のことであって、見ての通り変位電流は {\overrightarrow{I}} の中に盛り込まれていない。

右辺第二項が新たに加わった要素である。

{\overrightarrow{n}}{S} の各部分に垂直な単位ベクトルで、経路 {C} が反時計回りに見える側を向いている。



さて、今回もアンペール・マクスウェルの法則の微分形について考えておこう。

{\overrightarrow{I}} は電流密度ベクトル {\overrightarrow{i}} を使用すれば

{\displaystyle \overrightarrow{I} = \int_S \overrightarrow{i} dS}

と書き換えられるわけだから、アンペール・マクスウェルの法則は

{\displaystyle \int_S \left( \nabla \times \overrightarrow{B} \right) \cdot \overrightarrow{n} dS = \int_S \mu \left( \overrightarrow{i} + \epsilon \dfrac{\partial \overrightarrow{E}}{\partial t} \right) \cdot \overrightarrow{n} dS}

と表すことができ、空間上の各点で

{\displaystyle \nabla \times \overrightarrow{B} = \mu \overrightarrow{i} + \epsilon \mu \dfrac{\partial \overrightarrow{E}}{\partial t}}

が成立することになる。

これがアンペール・マクスウェルの法則の微分形である。

今回はコンデンサーを例として議論を進めたが、これは別の場合にも成り立つ。

アンペール・マクスウェルの法則が、アンペールの法則に代わって一般の場合について使える法則ということである。