大学物理の独言

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アンペールの法則

電流が作る磁場をビオ・サバールの法則によって求められることは、別の記事で扱っている。

この法則によって磁場を計算できる状況というのはかなり多くて汎用性が高い法則なのだが、もうひとつ、磁場を計算するのに役立つ法則がある。

それが、アンペールの法則と呼ばれるものである。

こちらも非常に扱いやすく、またビオ・サバールの法則よりもシンプルである。

さっそく法則を確認していこう。

アンペールの法則によると、磁束密度 {\overrightarrow{B} } は、閉曲線 {C} を貫く電流の総和を {I} とおけば

{\displaystyle \oint_C \overrightarrow{B} \cdot d \overrightarrow{r} = \mu I}

を満たす。

これは、見ての通り {\overrightarrow{B}}{C} 上で線積分した値が透磁率 {\mu}{C} を貫く総電流 {I} の積に等しいことを示している。

ただし、{I} は向きを考慮する必要があり、経路 {C} が反時計回りに見える方向から眺めたとき、眺めている者の方向へ経路を貫くものを正、逆方向に貫くものを負として計算する。

{C} は自由に決めてよい。

歪な経路でもよいし、綺麗な円形や正方形でもこの関係は満たされる。

ただし、この法則を {\overrightarrow{B}} を求める目的で計算するのであれば、やはり左辺の積分がしやすいような経路 {C} を設定せねばならない。



残念ながら、アンペールの法則で積分経路を決定するためには、磁場の様子をある程度知っている必要がある。

まず、磁場の大きさは、電流が流れている位置から無限に遠い場所では0にならなければならない。

これは、感覚的に納得できるだろうが、充分に離れた場所で0にならなかったら我々は強い磁場に囲まれてしまうから、方位磁針なんて機能するはずがない。

次に、磁場は流れている電流の周りを一周するように存在する。

この事実は、直線的に流れている電流についての例をビオ・サバールの法則についての記事で確認した通りに計算されてわかっている。

また、電流の周りを一周するという知識とともに系の回転対称を考えれば、ある程度は磁場の向きが想像できるはずである。



さて、これらを頭に入れて実際に例を考えていこう。

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上の図は、ビオ・サバールの法則の時にも使用したものである。

電流の周りを一周することと導線を軸とした回転対称性から、導線を中心とする円の接線方向に磁場が向いていることは容易に想像できる。

よって、とりあえず導線が中心の円形経路を {C} とすれば、この経路上では {|\overrightarrow{B}|} は一定となる。

これらの情報からは {\overrightarrow{B}} の向きがわからないが、{C} の向きはとりあえず適当に設定してよい。

今回は {z} 軸正の方向から見たときに反時計回りとなるような向きを {C} として考えることにする。

すると、半径 {r} の円形経路で

{\displaystyle \overrightarrow{r} = \left( r \cos\varphi, r \sin\varphi, z_0 \right)}

だから

{\displaystyle d \overrightarrow{r} = r \left( - \sin\varphi, \cos\varphi, 0 \right) d \varphi = r \overrightarrow{e_\varphi} d \varphi}

となる。

{\overrightarrow{B} = B \overrightarrow{e_\varphi}} とおけば、アンペールの法則の左辺は

{\displaystyle \begin{split} \oint_C \overrightarrow{B} \cdot d \overrightarrow{r} &= \int_{0}^{2 \pi} B\overrightarrow{e_\varphi} \cdot r\overrightarrow{e_\varphi} d\varphi \\ \\ &= Br \int_{o}^{2 \pi} d\varphi \\ \\ &= 2 \pi r B \end{split}}

となるのである。

{B} はこの経路上で一定となるために {\varphi} に依らないから、積分の外に出せてしまう。

右辺はどうなるだろうか。

{C} が反時計回りに見える方向に向かってくる方向というのは {z} 軸方向で、{I} はその向きになっているから、アンペールの法則に使うときにも符号は正のままである。

これらから、アンペールの法則の計算結果は

{\displaystyle \begin{split} 2 \pi r B &= \mu I \\ \\ B &= \dfrac{\mu I}{2 \pi r} \\ \\ \overrightarrow{B} &= \dfrac{\mu I}{2 \pi r} \overrightarrow{e_\varphi}\end{split}}

となる。

{C} の向きを勝手に決めてしまったが、逆にしていた場合には {I} が負になるから {\overrightarrow{B}}{C} の向きが逆だったのだと知れる。

ともあれ、ビオ・サバールの法則で計算したときと全く同じ結果が得られた。



次の例を考えてみよう。

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上の図はソレノイドの模式図で、描画の都合上長さが有限になっているが無限に長い場合を考えて欲しい。

ソレノイド中心を上方向に貫くような {z} 軸をとる円筒座標を考え、電流は矢印のように {z} 軸正から見て反時計回りの方向、経路 {C} は青く示したような長方形を考えてその頂点を図のように1〜4と呼ぶことにする。

初めに、経路上の磁場の向きを考えておこう。

ソレノイドは無限に長い場合を想定しているのだから、これを {z} 軸方向にスライドするように位置をずらしたとしても、ソレノイドの様子に変化は見えないはずである。

これは並進対称性と呼ばれるのだが、ソレノイドをこのように移動させても様子に変化がないのであれば磁場の様子を見てもスライドによって変化は起こらないはずである。

想像すればわかるだろうが、そうであれば経路上の磁場が {z} 方向以外の成分を持っていることはあり得ない。



よって、辺1→2では経路と磁場が平行になり、辺2→3と辺4→1では磁場の経路方向成分が0となる。

なお、並進対称性のみからは {\overrightarrow{e_\varphi}} 方向に成分がある可能性を消すことはできないが、この方向に磁場が存在できないことはビオ・サバールの法則が示してくれる(もっとも、その方向に磁場があったとしても経路と垂直だから計算上は関係がない)。

つぎに辺3→4だが、磁場は無限遠で磁場は0となるのだから、この辺上で {\overrightarrow{B} = \overrightarrow{0}} である。

以上により、辺1→2、2→3、4→1では {\overrightarrow{B} = B \overrightarrow{e_z}} 、辺3→4では {\overrightarrow{B} = \overrightarrow{0}} というように表せることがここまででわかった。

これを考慮してアンペールの法則を考える。

頂点1の {z} 座標を0、頂点2の {z} 座標を {z_0} とでもおき、ソレノイドの単位長さあたり巻き数を {n} とおけば、経路を電流が貫く回数は {nz_0} となるのだから、アンペールの法則の右辺は {\mu n z_0 I} となる。

左辺は

{\displaystyle \int_{C} \overrightarrow{B} \cdot d \overrightarrow{r} \\ \\ = \displaystyle \int_{0}^{z_0} B \overrightarrow{e_z} \cdot \overrightarrow{e_z} dz + \int_{0}^{\infty} B \overrightarrow{e_z} \cdot \overrightarrow{e_r} dr + \int_{\infty}^{0} B \overrightarrow{e_z} \cdot \overrightarrow{e_r} dr \\ \\ \displaystyle = \int_{0}^{z_0} B \overrightarrow{e_z} \cdot \overrightarrow{e_z} dz \\ \\ \displaystyle = B z_0}

これらから

{\overrightarrow{B} = \mu n I \overrightarrow{e_z}}

と求まるわけである。



ちなみに、辺1→2を図のもう少し右側によせてソレノイドの外に出してみると、経路を貫く電流が0なくなるから、アンペールの法則の右辺は0になる。

すると、計算してもらえばわかるが、辺1→2でも {\overrightarrow{B} = \overrightarrow{0}} とならなければアンペールの法則に矛盾することになる。

つまり、さきほどは「辺2→3と辺4→1では磁場の経路方向成分が0となる」と書いたが、実はこの2辺のうち、無限に長いソレノイドの外に露出した部分は実際には {z} 軸方向も0となるから {\overrightarrow{B} = \overrightarrow{0}} なのである。

逆に、辺3→4をもっと左に寄せてソレノイド内部に入れてしまうと、これも経路を貫く電流はなくなるから、この辺がソレノイド内部のどこにあっても辺上で {\overrightarrow{B} = \mu n I \overrightarrow{e_z} } となってしまう。

これはつまり、無限に長いソレノイドの内部ではどこも磁場が一定で {\overrightarrow{B} = \mu n I \overrightarrow{e_z}} ということである。