ハミルトン・ヤコビの理論
正準変換により、座標を取り替えて運動を議論することができるようになる。
今回はこの操作を用いて、物体とともに移動する座標系を考えてみたい。
新しい座標系でのハミルトニアン は、座標変換前のハミルトニアン と母関数 を用いて
と表せる。
これによって とすることができたら、正準方程式は
となるのだから、 と というふたつの定数で と で再度表してやれば、運動が記述できることになるのである。
つまり、物体の動きそのものではなく、それに合わせた座標の動きを式的に表すことで、間接的に物体の動きを調べることができるようになる。
この考え方をハミルトン-ヤコビの理論と呼ぶ。
新しいハミルトニアンが 0 になるように母関数を決めるのだから、当然
となり、これの方程式をハミルトン-ヤコビ方程式と呼ぶ。
また、 と の一階微分が 0 になるから、 と はどちらも定数 を用いて
と書けることになる。
さらに、正準変換によって
が言えるから、これによって と が と で表せるのである。
あとは初期条件から と を決定すれば、運動が求まることになる。
わかりにくいから、力を受けずに慣性の法則のみによって運動しているような、いわゆる自由粒子についてこの理論を用いて考えてみよう。
である。
と表せるから、ハミルトン-ヤコビ方程式は
である。
ここでハミルトニアンに由来する項を見てほしいのだが、この項は時刻 を含んでいない。
よって、この式の全体を と が完全に独立として積分してみれば
となるはずで、母関数 が というように変数分離できることがわかる。
このように変数分離したものをハミルトン-ヤコビ方程式に代入すると
と書き換えられる。
は のみの関数だし は のみの関数だから、これが成り立つのは と が定数の場合だけである。
を定数として
と書くことができ、これをハミルトン-ヤコビ方程式に代入すれば
と求まる。
よって、母関数は
ここで、 を新座標系の運動量 とおいてしまってよいことは、次元にさえ目を瞑ればそこまで不自然なことではないだろう。
現れる定数が か になるのだから、 にあてられても別に構わないというわけである。
これを許してしまえば、正準変換から
となることにより
と運動が求まることになる。
は定数だから第一項は定数、第二項は定数と時刻の積ということになり、これは
に対応する。