重心の運動方程式と相対運動
よく出てくる運動方程式というのは、ひとつの物体の運動について記述する。
に登場する はある質点の質量だし、 と もそれぞれ質点の座標と質点に働く力である。
では、質点がふたつあったとき、ふたつの運動はどのように関係し合うのだろうか?
あるいは、質点がもっと数え切れないほどあった場合や、無数の質点が集まって物体を形成していた場合にはどうだろうか。
複数の物体が存在するときを運動方程式から考えてみると、非常に興味深い性質が現れる。
質点が複数存在する場合の運動量については別の記事で扱ったが、今回は別の切り口での考察を試みる。
まずは、ふたつの質点が存在する場合の運動を見てみよう。
質点1(質量 、位置ベクトル 、受ける力 )と質点2(質量 、位置ベクトル 、受ける力 )が存在するとする。
それぞれについて運動方程式を考えると、
となり、これらの両辺を足すと
となる。
左辺で微分されている中身の変形をすると、
となる。
というのは、見ての通りふたつの質点の質量の和である。
は、ふたつの質点からなる系の重心の位置ベクトルである。
重心の位置ベクトルの表現には と が含まれているが、次元は や などの位置ベクトルと同じである。
質量の和を 、重心の位置ベクトルを と書き改めれば、2質点からなる系の運動方程式は
と表せる。
これは、重心の運動方程式である。
容易に理解できるだろうが、質点の個数が任意の場合についても同じような結果が得られ、
となる。
重心の運動方程式の右辺についてもう少し考えてみよう。
を外力 と内力 に分解すれば、
重心の運動方程式は
となる。
運動量について考えたときと同様に、作用・反作用の法則から内力には必ず同じ大きさで逆向きの反作用が存在するのだから、右辺の内力の項は となって、結局
となる。
つまり、系に対して外力が働いていなければ、いかなる内力が働いていたとしても(あるいは、内力が全く働かなくとも)重心の運動は静止か等速直線運動になるのである。
ひとつの例を挙げてみよう。
地球などの太陽系の惑星は、太陽の周りを公転している。
しかし、正確にいうと、実は惑星は太陽を中心に公転しているのではなく、太陽と惑星の重心を中心に公転しているのである。
だから、太陽も惑星の運動に合わせて重心の周りを回っていることになる。
ただし、太陽は惑星に比べて質量が非常に大きく、重心の位置は太陽に非常に寄っている。
そのため、惑星の軌道に比べて太陽の軌道の半径はごく小さなものとなる。
ちなみに、惑星があることによる恒星のこのような周期運動は、太陽系外の惑星を探す上でひとつの手がかりとなる。
ドップラーシフト法と呼ばれる惑星検出法では、惑星の公転に応じた恒星の周期運動をドップラー効果から見つけることで、その恒星に惑星があることを発見する。
先程までは重心について考えたが、それではひとつの質点から別の質点を見たとき、その運動はどのようなものに見えるのだろうか。
今度は複雑になるのを避けるため、外力が働かずに内力だけが存在する場合を考える。
ふたつの運動方程式
について、まずは下準備に
と書き換えておく。
質点1の変形は、作用と反作用の関係が「同じ大きさで逆向き」であることから、 という関係にあることによるものである。
質点1から見た時の質点2の様子を考えると、変形した運動方程式から
よって、質点1から見たときの質点2の運動方程式、これは質点1が常に原点になるように設定した座標での質点2の運動方程式とも言い換えられるが、これについて考えると
という結果を得ることができる。
ここで、 は換算質量と呼ばれ、よく と表記される。
換算質量を少し変形してみると
となるから、静止する座標系で質点2を観測するよりも、質点1から観測した方がまるで質量が小さな物体が動いているように見えることがわかる。
換算質量を覚える時に、どちらが分子でどちらが分母か混乱するという人をよく見かける。
その場合には、次元を考えてみればよい。
換算質量は当然質量の次元を持たなければならないのだから、分子と分母を逆にしてしまうと、次元が となってしまっておかしいことがわかる。