大学物理の独言

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ローレンツ力

電気現象と磁気現象が密接に関わっていることは今でこそ広く知られているものの、200年ほど前までは全くの無関係と考えられていたという。

両者の関係性が見出されるきっかけとなったのは電流に対して磁針が反応する現象で、この現象を数式的に記述したのがアンペールである。

彼の研究成果によると、大きさ {I} で向きが電流の流れる方向のベクトルを {\overrightarrow{I}} とおくと、この電流が磁束密度 {\overrightarrow{B} }から受ける単位長さあたりの力 {\overrightarrow{F}}

{\displaystyle \overrightarrow{F} = \overrightarrow{I} \times \overrightarrow{B}}

となる。

この関係は、電流が流れている導線を長さ {\Delta s} ごとに切っていったときにはそのひとつひとつについて {\overrightarrow{f} = \overrightarrow{I} \Delta s \times \overrightarrow{B}} として成立することになる。



電流というのは電子の移動によって引き起こされるものだが、向きも考慮すれば、電流を「正電荷の移動」として言ってしまっても不都合は生じない。

だから、先ほど書いた電流が磁場から受ける力というのは、導線をごく細かく区切って観察してやれば、電荷ひとつひとつが受ける力と見てしまうことができるのである。

電流は、単位電荷の大きさを {e} 、単位体積あたりの電荷の個数を {n} 、導線の断面積を {S} 、正電荷の速度を {\overrightarrow{v}} とおけば

{\displaystyle \overrightarrow{I} = enS \overrightarrow{v}}

となる。

これが電流の定義だといってもよいだろう。

さて、これを先ほどの式に代入してみると

{\displaystyle \overrightarrow{f} = enS \Delta s \overrightarrow{v} \times \overrightarrow{B}}

となるのだが、この式中の {enS \Delta s} というのは、微小長さあたりの総電荷を意味している。

これを一塊の電荷として大きさを {q} とおいてやれば、

{\displaystyle \overrightarrow{F} = q \overrightarrow{v} \times \overrightarrow{B}}

という、かの有名なローレンツりょくが導出できるのである。

この式からわかるように、電荷というのは磁場から力を受けることになる。

ただし、全ての電荷が力を受けるわけではなく、磁場と並行でない方向へ運動している電荷でなければローレンツ力を受けることはない。

静止している電荷{\overrightarrow{v} = \overrightarrow{0}} となるからだめだし、磁場と平行に運動している場合には {\overrightarrow{v} \times \overrightarrow{B} = \overrightarrow{0}} となるから、これもまたなんの力も受けない。



さて、外積の形で力を表現されてもイマイチ感覚が掴みにくいだろうから、ローレンツ力を受けた電荷の振る舞いを運動方程式から考えてみよう。

座標は {\overrightarrow{B} = B \overrightarrow{e_z} } となるようなデカルト座標をとることとし、電荷の質量を {m} とおくと

{\displaystyle m \dfrac{d \overrightarrow{v}}{dt} = q \overrightarrow{v} \times \overrightarrow{B}}

となるが、成分表示に書き換えると

{\displaystyle m \left( \dfrac{dv_x}{dt}, \dfrac{dv_y}{dt}, \dfrac{dv_z}{dt} \right) = q \left( v_y B, - v_x B, 0 \right)}

と書ける。

{x} 成分を両辺時間で微分して {m} を移動すると

{\displaystyle \dfrac{d^2 v_x}{dt^2} = \dfrac{qB}{m} \dfrac{dv_y}{dt}}

と変形でき、ここに運動方程式{y} 成分を代入すると

{\displaystyle \dfrac{d^2 v_x}{dt^2} = - \left( \dfrac{qB}{m} \right)^2 v_x}

となる。

これを計算すれば、単振動と同じように {A}{\alpha} を定数として

{\displaystyle v_x = A \sin \left\{ \left( \dfrac{qB}{m} \right) t + \alpha \right\} }

{\displaystyle x = \int v_x dt = \dfrac{mA}{qB} \cos \left\{ \left( \dfrac{qB}{m} \right) t + \alpha \right\} + x_0}

として {x} 座標が時間の関数として求まることになるわけである。

{y} 座標については、運動方程式にこの計算の結果を代入すれば

{\displaystyle v_y = A \cos \left\{ \left( \dfrac{qB}{m} \right) t + \alpha \right\}}

{\displaystyle y = - \dfrac{mA}{qB} \sin \left\{ \left( \dfrac{qB}{m} \right) t + \alpha \right\} + y_0}

これで大体の運動は想像がつくだろうが、仕上げにもうひとつ変形をしておこう。

{\sin^2 \theta + \cos^2 \theta = 1} という公式に代入してみると

{\displaystyle \left( x - x_0 \right)^2 + \left( y - y_0 \right)^2 = \left( \dfrac{mA}{qB} \right)^2 }

となるのだから、ローレンツ力のみをうけて運動する質点は、磁場の向きと同じ方向から眺めれば円運動をすることになるわけである。

もちろん、今回は計算を省いたが、{z} 方向の運動を考慮すれば、質点はただ {xy} 面内の円運動にとどまらず、{z} 方向に等速度運動をすることも許される。

それは、初速度次第で決定しなければならない。