運動量保存則と力積
運動方程式は多くの現象で
と表されるが、これは質量が一定だった場合の話である。
質量が時間に依存して変化する場合も考慮すると、より一般的には
と書かれなければならない。
この式から、外力がない、すなわち という特別な場合について考えると、 の微分がになるのだから、 は一定となることがわかる。
は運動量と呼ばれて、 と表されることが多い。
外力がない場合に運動量が一定となることを運動量保存則と呼ぶ。
これは、ジェットエンジンなどの仕組みに利用されており、現代社会において非常に重要な法則となる。
ちなみに、運動方程式はよく
とも書かれ、このブログでもしばしばこの書き方を活用していく。
質量、速度がそれぞれ で運動する物体が外力の影響を受けずに物体1(質量 、速度 )と物体2(質量 、速度 )に分離したとしよう。
すると、運動量保存則から
が成り立つように物体1と物体2の速度が決定されるのである。
つまり、物体が軸方向に進んでいたとして、分離した時に物体2の軸方向の速度が小さくなったり軸負の方向に運動したりするようになれば、物体1の軸方向の速度はそれに応じて大きくなり、瞬間的に加速されることになるわけである。
あるいは、物体が軸方向に運動している時に物体2を軸負の方向に射出すれば、物体1の速度は軸正の方向の成分を持つようになる。
これを力の観点から考えてみる。
分離するにあたって物体1が物体2を の力で押し出したとき、同時に物体1には、物体2を押し出す力 (作用)に対する反作用 が働くことになる。
この作用・反作用の法則によって、分離した時に両物体の運動の変化が起きる。
ただし、分離した時に運動が変化すると言っても、結合が切れたというだけの分離ではこのような変化が起こらない。
その場合は押し出していないため作用が存在せず、反作用も起こらないから、切断前と同じ運動を続けることになる。
もっとも、現実世界においては空気抵抗などの要素も考える必要があるため、実際には少しずつ離れていくことになるだろう。これは空気抵抗という外力が働いているためで、2物体間の運動量保存則が扱える範囲ではない。
このような場合を考えたければ、空気分子が持っている運動量も考慮に入れて運動量保存則を立てればよいのである。
さて、この運動量保存則はジェットエンジンに利用されていると書いた。
ジェットエンジンは、圧縮した空気を後方に押し出すことによって自身を加速させる装置である。
空気分子1つの質量は微小だが、大量の分子に対して後方への速度を与えることにより、運動量保存則によって機体の前方方向の速度を大きくすることができるわけである。
これもまた、作用・反作用の法則によっても理解できる。
つまり、空気分子に足して後ろ向きの作用を与えれば、機体が前向きの反作用を受けて加速されると理解できる。
さて、空気抵抗やジェットエンジンの話から察せられたであろうが、運動量保存則は別に結合していたものが分離する時についての運動に限定した話ではなく、複数の物体が衝突や引力などで影響しあう場合にも有効である。
運動方程式から、その理由を考えてみよう。
個の物体のうち 番目のものの運動量を とする。
この物体が受ける力は内力と外力の2種類が考えられ、内力を 、外力をとおけば運動方程式は
となる。
個の物体の運動方程式を全て足すと、
となる。
この式を見て「外力がなくても内力の項があるから運動量の和が一定にならないじゃないか」と思いたくなってしまうが、よく考えてみてほしい。
番目の物体が 番目の物体になんらかの力を及ぼしたとき、 番目の物体は 番目の物体からその反作用を受けることになる。
作用と反作用の関係は「同じ大きさで逆方向の力」なのだから、作用と反作用を足せば となる。よって、内力が物体間で存在していたとしても、それら全てを足せば となってしまうのである。
このことから運動方程式の和の右辺から内力の項は消えて外力の項だけが残り、
となる。
ただし、この式では外力の和を とおいている。
外力が存在しなければ右辺が だから、運動量の和が一定という、結合していた物体のときと同じ結果が得られる。
というか、 個の結合した物体についても、内力の和は となるのだから全く同じ考え方ができて、同じように表すことができるのである。
では、外力が存在した場合には運動量の和はどうなるのだろうか?
その場合には、先ほど導出した運動量保存則の両辺を時間で積分することにより
と計算することで、運動量の和の変化を調べることができる。
ただし、 と は、それぞれ外力を受ける前と後の運動量である。
この右辺、外力を積分したものを力積と呼ぶ。
系が外力を受けた時、系の運動量は受けた力積の分だけ変化するわけである。