ガウスの法則
電荷が存在するところには、電場が発生する。
つまり、我々の身の回りに溢れるあらゆるものは原子からできていて、その原子というのは陽子と電子を持っているのだから、この宇宙というのは電場に塗れた世界ということである。
磁場というのも電場が存在してこそのものであるし、可視光を含む電磁波というのも、その名の通り電場と磁場からなる波なのである。
このことからわかる通り、宇宙を知るためには、力学と同じく電磁気学というのも非常に重要な分野である。
まずは手始めに、電場というものの大きさがどのように考えることができるのかを考えていこう。
電場を計算する上で、重要となるのは電気力線という考え方である。
もちろん実際に線が存在してそれが電場だということではないのだが、目に見えない電場という存在を模式的に考える上ではとても重要な概念となる。
電気力線は、正の電荷から湧き出す、あるいは負の電荷に吸収される線として考えられる。
電気力線の性質は、次に示すものがある。
1. 電気力線の接線は、その点での電場の向きとなる
2. 正電荷から湧き出し、負電荷に吸収される(ただし、負電荷がない場合には無限遠まで続き、正電荷がない場合には無限遠から発生する)
3. 途中で消滅・分岐・交差することはない
4. その本数は電荷の大きさに比例する
5. 密度はその点での電場の大きさに比例する
これらを考慮しながら、電場の計算法を考えていこう。
まずは向きについて考えておかなければならない。
というのも、電場というベクトルの向きは、シンプルな状況であればあらかじめ考えておくことが可能な場合が多く、それを考えておかなければ計算がしづらいのである。
シンプルな状況の代表格として、電荷が球形の場合を考えよう。
この球をクルクルと色々な方向に回転させてみてほしい。
その中で、球の形や電荷の分布等が他の角度から見た場合と違って見える面というのは存在するだろうか。
答えはもちろん「存在しない」である。
球というのはそもそもどの角度から見ても同じに見える形なのだし、その球そのものが電荷なのだから、どの面を見ても別の面と区別がつかないはずである。
そうであれば、その表面から出てくる電気力線も当然全ての面の区別がつかないような向きにならなければならない。
これを、回転対称性という。
ある軸や点を中心に回転させても見た目が同じ、つまり対称となるからこのように呼ばれる。
では、球から電気力線がでているとき、電気力線の回転対称性が保たれるのはどのような向きで電気力線がでている場合だろうか。
そのような向きは、球の表面に対して垂直な向きに出ている場合、つまり、球の中心から放射状に電気力線が伸びている場合以外にはありえない。
この向きこそが、電気力線の様子、つまりは電場の向きの様子ということになる。
ちなみに、球が電荷そのものでなくとも、球形の物体に電荷が一様に分布している場合にも、同じように回転対称性があるのだから、電気力線の様子は中心から放射状になる。
さて、電気力線の向きがわかったところで、電場の大きさを考えていくのだが、その前に一つの簡単な知識を紹介しておく。
ここから自由な立体を考えていくのだが、その立体を隙間なく覆う表面(これを閉曲面という)を外向きに貫通するような直線の本数というのは、内向きに貫通する直線の本数を負として計算した場合、その閉曲面の内部で発生した直線の本数に等しい。
つまり、直線が閉曲面の内部に向かって貫通した場合、その直線は必ずどこか別の場所で外向きに貫通することになるわけだから、結局
となるわけである。
このことを考慮して、電場を考えていく。
先ほど紹介したように、電場の大きさというのは電気力線の密度と考えることができる。
つまり、電気力線の密度が同じになる場所は電場の大きさが同じになるということで、そのような場所を選んで作った閉曲面上では、電場の大きさが一定である。
ピンとこないと思うので、電場を求める公式を先に提示してしまおう。
大きさが の点電荷(大きさが微小な球形の電化)が距離 の位置に作る電場を とおくと
となる。
これは、ガウスの法則と呼ばれる。
というのは誘電率と呼ばれる値だが、比例定数程度の認識で構わない。
は閉曲面の各部分に垂直な単位ベクトルで、 は閉曲面を微小な網目に分けたうちのひとつの面積、いわゆる微小面積と呼ばれるものである。
つまり、左辺は閉曲面を微小に分割した時、微小部分を貫く電場のうち面に垂直な成分を考えて、それを面全体で足したものということになる。
というと複雑になってしまうが、この計算には裏技がある。
先ほど述べたように、閉曲面を外側に貫く総数は、曲面の形に関わらずその内部から発生した本数に等しい。
だから、閉曲面は自由に決めてよく、曲面上の全ての部分が同じ電場の大きさになるようにとってやれば、複雑な思考を経なくとも、左辺がその面上の点の電場と面積の積になる。
電場が面上の位置に依存しなければ、
になる。
その結果は、閉曲面の面積 を用いればもちろん となるのだから、面のひとつひとつの点を細かく考えていく必要などなくなる。
このような考え方ができるのは、点電荷の場合にはそれを覆う球の表面なのである。
さらに都合の良いことに、点電荷の場合には、それを覆う球面を垂直に貫く単位ベクトルは、点電荷から放射状に伸びる向き、つまり電気力線と同じ向きであるから、
となる。
よって、ここまでを盛り込めば
となり、点電荷が距離 のところに作る電場の大きさは
として求まる。
電場の向きは だが、これは とも表せる。
よって
が点電荷の作る電場である。
電気力線の話を思い出せば理解できるだろうが、 というのは閉曲面内部にある電荷である。
そのため、電荷が一様分布するような半径 の球が作る電場を考えた場合、球の中心から の位置の電場を考える場合には、半径 の球内部にある電場が とならねばならず、半径 の内部全体の電荷を考えてはいけないのである。