歳差運動
回るコマを見てなぜ倒れないのかを疑問に感じるというのは、多くの人が経験することだろう。
感覚的にはおかしい挙動のように見える。
しかし、角運動量と力のモーメントの関係から考えると、コマが倒れないというのは力学的に自然な現象なのである。
下の図のようなコマを考えてほしい。コマは上から見て反時計回りに回っており、回転軸は だけ傾いているとする。
考察を楽に進めるため、コマの接地箇所は移動しないとしてしまい、さらにコマが 軸周りに回る角速度は、 と比べて充分に小さいとしてしまおう。
コマには重力 が の位置にある重心に働くと考えることができるから、受ける力のモーメントは である。
また、角速度ベクトル は 当然コマの回転軸に沿った向きになるわけだが、コマは反時計回りに回転しているから、その向きは回転軸に沿った 軸正の向きである。
さて、設定の説明はここまでにして、考察を始めよう。
とおけば
となる。
角運動量 と力のモーメント の関係は
であった。
この法則は、角運動量と力のモーメントの大きさばかりに目が行きがちだが、向きについてもこの式が満たされなければならない。
今回のコマでは、 軸方向に注目して考えることにする。
コマの回転軸周りの慣性モーメントを とおけば、
であるから、その 軸方向の成分は
である。
角運動量と力のモーメントの 成分を、方程式に代入してみる。
すると、
となってしまうのである。
つまり、 は一定の値になるのである。
回転の角速度が一定であれば(つまり回転の速度が一定であれば)、 も一定ということになる。
もう少し感覚的な表現に直せば、
であるから、重心の 座標が一定ということになる。
つまり、コマの重心の高さは一定となり、コマが倒れてしまうというような、この関係が崩れてしまう状況は起こらないのである。