二重振り子
下の図に示すような二重振り子の運動について考えたい。
この運動を加速度と働く力からそれぞれに考えようとすると、現象が複雑すぎてとてもではないが運動方程式にたどり着けない。
このとき、オイラー・ラグランジュ方程式が高い効果を発揮する。
まずはラグランジアンを考えてみよう。
といっても最初から極座標で考えようとしてもうまくいかないので、デカルト座標で考えてみることにする。
図のように質点1と質点2を考え、それぞれの座標を とすると、この系のラグランジアンは
と書ける。
これを と を使って表してみよう。
各変数は、 と で
と表されるから、それぞれの時間微分は
というふうに表される。
これをラグランジアンに代入すれば
というふうに求まる。
少々複雑になってしまったが、とにかくここから運動方程式をつくることができる。
計算過程を示すのは面倒なので、代入した結果の運動方程式を書いておく。
ひとつ目が について、ふたつ目が についてのものである。
これらの運動方程式を解いていきたいところだが、残念ながらそれはできない。
これらを解くためには、 という仮定のもとでなければならない。
この仮定がない場合の質点の運動は非常に複雑で、コンピュータによる計算が必要となる。
あとは手計算で運動を求めたかったら、 とか の条件を追加して、連成振動の時と同じように行列を用いて計算するとよい。
これをやっても真新しさが全くないのでここでは書かないが、この条件のもとでならそこまで苦労せずとも解けるはずである。
微小振動でならそうして解くことができるが、微小でない場合には、いわゆるカオスと呼ばれるような運動になることが知られている。
検索すれば動画が出てくるから、見てみるといいだろう。
ハミルトン・ヤコビの理論
正準変換により、座標を取り替えて運動を議論することができるようになる。
今回はこの操作を用いて、物体とともに移動する座標系を考えてみたい。
新しい座標系でのハミルトニアン は、座標変換前のハミルトニアン と母関数 を用いて
と表せる。
これによって とすることができたら、正準方程式は
となるのだから、 と というふたつの定数で と で再度表してやれば、運動が記述できることになるのである。
つまり、物体の動きそのものではなく、それに合わせた座標の動きを式的に表すことで、間接的に物体の動きを調べることができるようになる。
この考え方をハミルトン-ヤコビの理論と呼ぶ。
新しいハミルトニアンが 0 になるように母関数を決めるのだから、当然
となり、これの方程式をハミルトン-ヤコビ方程式と呼ぶ。
また、 と の一階微分が 0 になるから、 と はどちらも定数 を用いて
と書けることになる。
さらに、正準変換によって
が言えるから、これによって と が と で表せるのである。
あとは初期条件から と を決定すれば、運動が求まることになる。
わかりにくいから、力を受けずに慣性の法則のみによって運動しているような、いわゆる自由粒子についてこの理論を用いて考えてみよう。
である。
と表せるから、ハミルトン-ヤコビ方程式は
である。
ここでハミルトニアンに由来する項を見てほしいのだが、この項は時刻 を含んでいない。
よって、この式の全体を と が完全に独立として積分してみれば
となるはずで、母関数 が というように変数分離できることがわかる。
このように変数分離したものをハミルトン-ヤコビ方程式に代入すると
と書き換えられる。
は のみの関数だし は のみの関数だから、これが成り立つのは と が定数の場合だけである。
を定数として
と書くことができ、これをハミルトン-ヤコビ方程式に代入すれば
と求まる。
よって、母関数は
ここで、 を新座標系の運動量 とおいてしまってよいことは、次元にさえ目を瞑ればそこまで不自然なことではないだろう。
現れる定数が か になるのだから、 にあてられても別に構わないというわけである。
これを許してしまえば、正準変換から
となることにより
と運動が求まることになる。
は定数だから第一項は定数、第二項は定数と時刻の積ということになり、これは
に対応する。
正準変換・ラグランジアンの任意性
作用 は、ラグランジアン を用いて
と表される。
実は、この変分 が 0 になるようなラグランジアンにはある程度の任意性がある。
これまでによく考えてきたような運動エネルギーとポテンシャルの差で表されるラグランジアンを として、
というのを考えてみよう。
というのは、座標と時間を変数に持つ任意の関数である。
こうすると、作用の変分は
となり、第一項は当然 0 になるし、積分の外にでた に関する項は、端点条件から なので、これもまた 0 になる。
よって、このような の一階微分がラグランジアンに加えられても、結局は同じラグランジアンと言ってしまっていいのである。
今回はこのような性質を用いて、ハミルトニアンの座標変換を行なってみる。
もとの座標上で だったハミルトニアンに対し、座標変換後のハミルトニアンを としよう。
ハミルトニアン は
と定義されるから、逆にラグランジアンは
と書ける。
よって、ハミルトニアンを用いれば、作用は
と表せる。
同様に、座標変換後の変数を用いれば、同じ作用が
とも書ける。
ラグランジアンに関して最初に説明した性質を用いてもう少し書き換えてみると、座標の任意関数 を用いて
としてしまってもこれらはすべて同じのはずである。
同じなのだから、当然
となり
という関係がわかる。
の時間微分についてもう少し扱いやすい形に書き直せば
となるから、これを先ほどの式に代入すると
任意の に対してこれが成り立つから
が言える。
運用を想像してくれればわかるだろうが、これは を先に決定しなければ座標変換先の変数がわからず、「この座標系に変換したい」という発想で を選ぶことはできない。
を決めてそれを計算してみるまで座標変換後がどのような座標系かはわからないが、それでもとりあえず座標変換がこれで行えるのである。
ちなみに、当然のことではあるが は と の関数だから、(1)と(2)によって と が と によってどう表されるかを調べてから、最終的に(3)に代入する必要がある。
この変換で重要な役割を果たす は、 と を生み出す関数ということで母関数と呼ばれる。
また、母関数を用いて座標変換するこの操作を正準変換という。
ここまでの議論による正準変換は母関数が の関数の場合にしか適用できないのだが、別の変数を持つ母関数もあった方が便利だ。
実は、旧座標の変数と新座標の変数をそれぞれひとつずつもった関数であれば、同様に母関数にしてしまうことができる。
の関数である母関数を と書くことにして、それをもとにルジャンドル変換によって変数がべつの組の場合も考えてみよう。
まず、 を考える。
とルジャンドル変換を定義すれば、
という変形ができるため、 を用いた正準変換は
となる。
同じように操作してやると、母関数 が や の場合も含め、全ての母関数において
がわかる。
さきほどルジャンドル変換を定義したとき、 の定義の右辺の符号が正準変換について書いたときと逆になっていることを疑問に思ったかもしれないが、これは許される操作である。
右辺の符号を変えれば新座標の変数を旧座標の変数を用いて表したときにすべて符号が逆になるだけで、何ら問題は生じない。
ポアソン括弧
ハミルトニアン を用いた運動方程式である正準方程式は、座標を 、運動量を として
である。
これはオイラー・ラグランジュ方程式と比べてシンプルだが、一方のみが右辺にマイナス記号を必要としていて、少々覚えづらいし両者の対称性が損なわれている。
少しやりづらくないだろうか。
座標と運動量、時刻を変数とする一般の関数 を考える。
と表せる。
この に座標 や運動量 を代入した場合
となるのだから、当然のことながら正準方程式と同じように
という結果になる。
一般の物理量 に関して
として定義される をポアソン括弧と呼ぶのだが、ポアソン括弧を用いると
となって、正準方程式を符号に関して注意する必要のない方法で表せるのである。
ちなみに、 をクロネッカーのデルタ( のとき 、その他の場合 となる記号)として
という関係が成り立ち、これらはまとめて基本ポアソン括弧式と呼ばれる。
ポアソン括弧には他にもいくつか性質があるから、 を任意の物理量として列挙しておく。
反対称性
双線型性
ヤコビ恒等式
いずれも定義から考えれば理解できるはずである。
次に、 が保存量であるとしてポアソン括弧で少し遊んでみる。
これらが保存量であれば も も 0 で
となる。
ヤコビ恒等式から
となるのだが、 と が保存量だから、左辺にあるふたつのポアソン括弧はどちらも 0 になる。
よって
ということになり、 が保存量ということがわかるのである。
これは、新しい保存量を見つける手がかりとなりうる。
ルジャンドル変換・正準方程式
解析力学の世界では、運動方程式にはいくつかの表現方法が存在する。
そのひとつがラグランジアンを用いたオイラー・ラグランジュ方程式だが、今回紹介するのはハミルトニアンというのを用いた運動方程式である。
こちらの方が、運動方程式の形がシンプルでわかりやすい。
ハミルトニアンを用いた運動方程式を「ハミルトン方程式」とか「正準方程式」と呼ぶのだが、オイラー・ラグランジュ方程式では座標 とその一階微分 を用いていたのに対し、正準方程式では と運動量 を使って表現する。
こうすることにより、二階微分を用いずに一階微分のみで運動方程式を記述できるのである。
まず、ルジャンドル変換というのを考える。
これは、 という関数を という形に変換するもので、 を
となるように定義する。
このようにすると
というふうに の微分を表すことができる。
定義から がついている項は 0 になって消えるから
となることにより
という関係が求まる。
ラグランジアンを 、ハミルトニアンを とおくと、先ほどまでの話とは
という対応関係になる。
つまり、ハミルトニアンは
として定義され、
という関係が成り立つことになる。
を使うと
と変形できるが、運動量 は
だから結局
ということになる。
以上をまとめると、ハミルトニアンは
で、これを用いると
という関係が成り立つ。
このふたつの式こそが正準方程式である。
この関係は、ルジャンドル変換を考えればわかるように、 が時刻 を含んでいる場合にも当然成り立つ。
ハミルトニアンを用いるときに注意しなければいけないのは、 を残してはいけないということだ。
ハミルトニアンが時刻 を含む場合も考えれば だから、そこに が残ってはいけない。
を用いれば を で表すことができるから、それによって座標の一階微分は消去する必要がある。
ネーターの定理
エネルギー保存則だとか運動量保存則だとか、物理学では色々な物理量に関する保存則が存在する。
保存量を見つければそれだけで現象の理解に役立つことは力学を学ぶ中で経験的に感じているだろうが、じつは、保存量を見つける方法というのが存在しているのである。
ネーターの定理の導出は、ラグランジアン の時間積分である作用 の式変形から始まる。
について、座標と時間を微小に進行させた作用 ともとの作用 の差が 0 になるときに対称性があるということになるのだが、系に対称性があるとき、保存量が存在することがこの定理からわかる。
つまり、 、 とおくと、
が 0 になれば保存量が見つかる。
この計算を大変なものにしているのは、 を微小に進行させている点である。
これを変化させてしまうせいで、
とか
とかを計算して、これらを代入したのちも複雑な計算を強いられることになる。
この記事では書ききれないので、ラグランジアンが を露わに含まない(つまり、座標変数やそれを微分した変数を通してしか時間によらない)場合についての計算結果を書いておく。
1行目から2行目にかけて複数の項が一度に消えてしまったが、
はオイラー・ラグランジュ方程式により、実現可能な運動に関しては 0 になるから消える。
また
というのは、 の中がエネルギーを表しており(やってもらえばわかるはずである)、その一階微分はエネルギー保存則によって 0 になるのだからこの項も消えてしまう。
よって、消えずに残るのは最後の部分だけになるのである。
とおけば、 の場合
となるため、 が保存量となる。
の中身を見てみよう。
が 0 だった場合、座標を だけ進行させても が変化しないわけだから、 が一定となる。
これは、計算してみたりオイラー・ラグランジュ方程式を考えたりすればわかるだろうが運動量だから、運動量保存則がわかるのである。
では逆に、 の場合、時刻を 進行させても が一定となるから、 が保存量となる。
先ほど書いたようにこれは全エネルギーであるから、エネルギー保存則がここからわかるのである。
変分法・最速降下線
これまでの力学は、運動の変化のしかたを表す式に初期条件や境界条件を代入することによって、細かく区切った時間ごとの様子を調べていくものだった。
しかし、変分法を使えば、初めと終わりの条件を設定することによって様子を追うことができてしまうのである。
変分法が扱うのは、
というような積分である。
この積分について、「 が極値をとる方法で が変化する」というのが変分法の主張となる。
思わせぶりに積分の中身を で書いてしまったが、この をラグランジアンと考えれば、 が極値をとるような を考えると、オイラー・ラグランジュ方程式が導出できてしまう。
がラグランジアンの場合の を作用と呼び、作用についての変分法を特に変分原理と呼ぶ。
早速式を変形していくのだが、その際に と は独立として考えなければならない。
変分法では、一旦これらを独立として考えて、独立なそれらによって生成されるすべての運動軌道の中からただ一つの最適なものを探し出す。
が極値をとるとき
となることは、そもそも極値をとる場所というのはそういうところのことを言うのだから、グラフを考えれば理解できるだろう。
だから、これを部分積分などを駆使して式変形していけばよいのである。
先ほど と は独立と書いたが、部分積分の過程では の時間微分を として書き換えてしまう。
独立であれば本来許されない操作だが、実現しうる運動であればこのような関係が成り立つのだから、考えている無数の軌道のうちで と の関係から少々絞り込みを行なったという意味になる。
1行目から2行目への部分積分で の外に項が現れたが、実はこの項は0になって消滅する。
変分法で考えているのは、初めと終わりの条件を設定した場合に途中の経路がどうなるかというもので、初めと終わりの条件を満たすあらゆる軌道の中から が極値をとるものを探しているのである。
座標の一階微分は組み込む条件ではないからどうなるかわからないのだが、考えている初めと終わりの座標にずれがあっては、出てくる運動が考えたいものと別のものになってしまう。
このような理由から、
となり、結局
だけが残るのである。
がどのようであってもこれが成立するためには、すべての で
とならなければならないのだから、オイラー・ラグランジュ方程式が導出される。
上では変分法をオイラー・ラグランジュ方程式の導出に使用したが、もともと「 が極値をとるものを探す」というものなのだから、もっと別の活用法がある。
たとえば、下の図のように (原点)から まで質点が最短時間で転がり降りるためにはどのような斜面であればよいかということも、変分法によって求めることができる。
どのような条件を考えれば が最小になるかという話になるのだが、縦軸に 、横軸に が設定された適当なグラフを考えてみてほしい。
の意味を考えればある座標で突然 が不連続に変化するはずはないので、グラフは連続となるべきである。
そのように考えると、 が最小になるとき、グラフは極小とならなければならない。
また、 は経路をいくらでも長くできるため極大値などというのは存在しないから、グラフが極値をとる場所で が最小となると言えるのである。
最短時間で転がり降りることができる斜面は最速降下線と呼ばれるのだが、転がり落ちるのにかかる時間を とおき、斜面の軌道 を で表せば、転がる速さを として
となることがわかるだろう。
原点で質点の初速度が0とすれば、エネルギー保存則より
だから、以降では と表すことにするが
となるのである。
変分法について最初に書いた式と比べると文字の対応関係は
となっているのだから、
を満たす軌道が、転がった時に最も短い時間で から に到達するものとなるわけである。
計算してみればわかるが、これによってサイクロイドのグラフが求めたい答えとなる。
その他の例題としては、上の図で から への最短距離を示すグラフはどのようになるかを計算してみれば、自明な解が得られるはずである。