熱力学第一法則・エンタルピー
私が熱力学第一法則を高校で学んだとき、それを覚えるものとして指導された。
その後いくつかの本を読んでも同じように暗記しなければならないかのように扱われていて、何人かの友人は「される仕事の場合は符号が...」などと苦労していたのだが、実際にはもっとシンプルなものである。
この法則は、ようはエネルギー保存則だ。
気体が受け取った熱を 、内部エネルギーの変化量を 、気体がされた仕事を とおけば、熱力学第一法則は
となる。
これは気体が受け取った熱とされた仕事がそのまま内部エネルギーに変化しているということを表しているのだから、ただ単に「受け取ったエネルギーの分だけ内部エネルギーが増加する」というだけの意味となる。
だから、気体が外に向けてした仕事を とおくことにするなら
というふうになるのも、覚えていなくたって少し考えればわかる。
そうは言っても、いちいち仕事が「される」なのか「する」なのかを考えながら式を作るのはめんどくさい。
する仕事 の定義は、働く力を 、力と垂直な方向への変位を とおけば
である。
を圧力 を用いて表してみると、力を受ける面積を とすれば
となるのだから、体積 を用いて
と書けるようになる。
この書き換えを用いれば、する仕事は が正だし、される仕事は が負なので、一律に
と書くことができるようになる。
ここからわかるように、圧力が一定な変化(定圧過程)では
だし、体積が一定な変化(定積過程)では
となる。
ここで、エンタルピーという新しい関数を導入しておこう。
エンタルピー は
で定義される。
すると、エンタルピーの変化量は
と表されるようになる。
圧力が一定という条件について考えると、右辺の最後の項が消えるから、エンタルピーの変化は圧力一定下での熱力学第一法則における気体が受け取った熱量 と等しくなる。
化学変化を扱うときなどでは圧力一定で変化を起こすことが多い(外気に晒したまま反応を起こさせるため、圧力は外気圧で一定となる)から、エンタルピーは非常に活躍する。
では、ここで除け者にされてしまった右辺第三項の は何かというと、外に向けて仕事をするために気体が蓄えている能力というような意味合いに解釈ができる。
体積一定条件では
となるのだから、エンタルピーの変化量が内部エネルギーの変化量と仕事をする能力の蓄えということになる。